現代は「ストレス社会」と言われてから既に半世紀を経ています(H.セリエ:現代社会とストレス、1956年・邦訳1966年)。
セリエ先生は、ストレスは様々な要因が引き金(ストレッサー)となること、そして生体の適応反応の「特異性」と「非特異性」という概念から「汎適応症候群」という概念を示しました。ストレス反応の初期は、脳下垂体から副腎に信号が伝わり副腎からのストレスホルモン(コルチゾール)が該当する組織に伝わり、まず「炎症反応」を引き起こします。いわゆる「あ、熱だ、風邪ひいた!」という初期反応で、そこからストレッサーの特異性に応じて様々な症状が発症します。もしもその人の抵抗性が高ければ初期反応だけで事なきを得ますが、そうでない場合は抵抗性が低下して「疲憊期」に入りストレッサーに応じた具体的な病状が表れてきます。
ストレッサーには、気温や湿度、化学物質や小動物(ダニ)などがあります。問題は対人関係などの「精神的要因」がストレッサーに変化することです。人間は進化のプロセスで「言葉による記憶‐行動系」を獲得してしまったがゆえに、目前にはないものまでがストレッサーとなります。「マインドワンデリング(心の彷徨)」といって意識の半分が、過去のいやな出来事や未来への不安となってストレス反応(炎症)を引き起こします。更に大脳辺縁系の情動を司る「扁桃体」の過剰反応や「海馬(記憶に関与する)」の神経細胞を萎縮させることも分かってきています。
そもそもストレス反応は「緊急反応」といって、ご先祖様たちがサバンナで危険動物に遭遇した時に身を守るための防衛反応です。アドレナリンを分泌して血糖値や心拍数をあげ、手足の皮膚の血管を収縮させ血液を固まらせやすくします。脳と筋肉をフル活動させ危険を回避するための重要な反応機序だったのです。ハーバード大学の精神科医・レイティ先生は、人間にもともと備わっているストレス反応は、①危険に集中する、②反応を起こす、③将来のためにその経験を記憶する、こととし、情動を司る大脳基底核の扁桃体に非常スイッチが入り、視床下部⇒脳下垂体⇒副腎皮質ルートでストレスホルモン(コルチゾールなど)を放出し、これが記憶と関連する海馬に送られて前頭前野と連携して将来的に適切な反応が形成されると指摘します。しかし現代社会ではライオンも蛇も姿を消し、最も怖い「人間」が繰り返し繰り返しストレッサーとなる「キラーストレス(NHKスペシャル取材班、2016年)」という厄介な存在が問題となってきます。
そこでストレスと身体運動の関係がクローズアップされてくるのです。